相続後に確定申告は必要?実務で間違えやすいポイントを整理
こんにちは、田中 です。
相続が発生した際、お客様から非常によく聞かれるのが「相続したら確定申告は必要ですか?」という質問です。
結論から言うと、相続しただけでは、原則として確定申告(所得税の申告)は不要です。ただし、その後の行動によっては確定申告が必要になるケースが多くあります。
ここを正しく理解していないと、
- 申告漏れ
- 税務署からの指摘
- 不要な追徴課税
- 相続人同士の認識違い
につながるため、実務上とても重要なポイントです。
今回は、「相続税」と「所得税」の違い、そして相続後に確定申告が必要になるケースについて整理します。

大前提
相続税と所得税はまったく別物
まず最初に整理すべきなのは、相続税 と 所得税(確定申告) は別制度ということです。
相続税 → 財産を受け取ったことに対する課税
所得税 → 利益(所得)が発生したことに対する課税
この2つを混同すると、判断を誤りやすくなります。
相続しただけでは確定申告は不要
相続は、亡くなった方(被相続人)の財産を受け取る行為であり、それ自体は「所得」ではありません。そのため、相続しただけでは所得税の確定申告は不要です。
確定申告が必要になる主なケース
① 相続した不動産を売却した場合
相続した不動産を売却し、譲渡益(利益)が出た場合には、譲渡所得の確定申告が必要になります。
譲渡所得の基本式
譲渡所得= 売却価格 −(取得費+譲渡費用)− 特例控除
よくある誤解
「相続したものだから取得費はゼロでは?」 → これは誤りです。
相続では、被相続人の取得費をそのまま引き継ぎます。
保有期間も引き継ぎます。
譲渡所得の税率は
- 長期譲渡(5年超)
- 短期譲渡(5年以下)
で大きく変わります。つまり、相続してすぐ売っても長期譲渡になることは普通にあります。
取得費加算の特例
相続開始から3年10ヶ月以内に売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる可能性があります。これにより譲渡所得を圧縮し、譲渡所得税を抑えられます。
注意点
この特例は、相続税を実際に納付していることが前提です。相続税がゼロの場合は基本的に使えません。また、土地・建物のどちらに加算されるか、按分の考え方も重要です。ここは税理士確認が必須です。
② 家賃収入がある場合
被相続人が
- アパート経営
- 駐車場経営
- テナント賃貸
などをしていた場合は、死亡日を境に所得の帰属が分かれます。
所得の区分
1月1日〜死亡日(当日含む) → 被相続人の所得
死亡日の翌日〜12月31日 → 相続人の所得
準確定申告とは?
死亡日までの所得については、本人が申告できないため、相続人が代わりに相続開始を知った日から4ヶ月以内に申告します。通常の確定申告よりかなり短いため要注意です。
③ 株式・投資信託を売却した場合
上場株式・投資信託・ETF・REITなどを相続して売却し、利益が出た場合も課税対象になります。
ここでも、不動産と同様に、被相続人の取得費を引き継ぎます。死亡時の時価が自動的に取得費になるわけではありません。
特定口座(源泉徴収あり)
この場合は、証券会社が税額計算を行うため、確定申告不要になるケースがあります。
ただし、損益通算や繰越控除を使う場合は申告した方が有利になることがあります。
遺産分割のタイミングで帰属が変わる
ここも非常に重要です。死亡後に発生した家賃などは「一度相続財産になってから分ける」わけではありません。最初から相続人に直接帰属します。
年内に分割が確定した場合(12月31日まで) → 取得した人に帰属
年内に分割未了の場合 → 法定相続分で按分
判断基準は、確定申告期限ではなく12月31日時点です。ここを誤解する方が非常に多いです。
後から修正できる?
原則としてできません。年内未分割なら、一旦法定相続分で確定申告します。翌年に分割が決まっても、前年分を遡って自由に修正することは原則できません。
つまり、所得の帰属と財産の帰属が一致しないことがあります。

所得と相続財産は別物
死亡日までの所得について「それも相続財産になる」と考えがちですが、正確には少し違います。
正しくは
所得→ 所得税の対象
税引後に残った財産→ 相続財産
この順番です。ここを逆に考えないことが大切です。
家賃は入金日ではなく発生ベース
例えば、「4月分家賃が5月に入金」された場合でも、重要なのはどの期間の収入かです。
NISA・iDeCoの相続時の違い
金融資産は口座の種類によって取扱いが異なります。
NISAの場合
NISA口座は、相続により終了します。非課税枠は引き継げません。相続財産に計上され、その後は課税口座へ移管されます。※新NISAでも非課税枠の承継は不可
iDeCoの場合
iDeCoは現物で引き継ぐものではなく、死亡一時金として支払われます。
税務上の扱い
受取人が指定されていても、これはみなし相続財産として相続税の対象になります。ここは生命保険と似ています。
よくある誤解
「受取人固有の財産だから非課税」→ これは半分正しく、半分誤りです。民法上は固有財産でも税務上は相続税の対象になります。
まとめ
相続と確定申告は混同されやすいですが、本質はとてもシンプルです。
相続税→ 財産に対する課税
所得税→ 利益に対する課税
そして重要なのは相続したことではなくその後の行動で申告が決まるという点です。
相続後に何をするか
- 売るのか
- 貸すのか
- 保有するのか
- 株を換金するのか
ここを理解しているだけで、実務の精度は大きく変わります。相続は「受け取って終わり」ではありません。むしろ、その後の判断こそが本当のスタートです。


