海外不動産による節税は今どうなっている? ~所得税・損益通算・相続税の視点から整理~
こんにちは、田中 です。
以前は、海外不動産を使った節税が有効という話を耳にすることが多くありました。
特に、高所得者層を中心に、ハワイ・アメリカ本土・東南アジアなどの海外不動産を活用したスキームが注目された時期があります。

現在、この方法はどうなっているのでしょうか。
今回は、
- 過去にどのような仕組みだったのか
- 現在は何が変わったのか
- 相続ではどんな問題があるのか
を整理してみます。
過去:海外不動産による所得税対策が注目された時代
以前は、海外不動産を活用した所得税対策が一定程度行われていました。代表的なのが、海外の築古不動産を購入し、短期間で大きな減価償却費を計上する方法です。
流れとしては、以下の通りです。
- 海外の中古不動産を購入
- 減価償却費を大きく計上
- 不動産所得で帳簿上の赤字を作る
- 給与所得と損益通算する
結果として、課税所得を圧縮し、所得税・住民税を抑えるという効果が期待されていました。
なぜ成立していたのか?
ポイントは、「帳簿上の赤字」と「実際のキャッシュの動き」が一致していなかったことです。
減価償却とは、建物などの取得費を一定期間に分けて費用計上する会計上・税務上の考え方です。ここで重要なのは、減価償却費は、実際にお金が出ていなくても経費になるという点です。
- 家賃収入は入ってくる
- 実際の現金はそこまで減っていない
- しかし会計上は大きな赤字になる
という状態が作れるケースがありました。特に海外中古不動産では、日本の税法上の耐用年数計算により、短期間で大きな減価償却費を計上できるケースがあり、 「キャッシュは残るが、税務上は赤字」という構造が生まれていました。

現在:制度改正により大きく制限
令和2年度税制改正により、海外中古不動産の減価償却による損失について、一定部分が損益通算できない仕組みが導入されました。
以前は、
- 減価償却で赤字を作る
- 給与所得と相殺する
という流れが可能でした。
しかし現在は、海外中古建物の減価償却費から生じた損失について、給与所得等との損益通算が制限される仕組みになっています。イメージとしては、「減価償却による赤字部分は、税務上なかったものとして調整される」という感覚に近いです。
改正の本質は「非キャッシュ損失」の調整
実際に現金支出を伴わない損失については、そのまま税務メリットとして認められにくくなりました。特に問題視されたのは、実際にはキャッシュが残っている、しかし税務上だけ大きな赤字になるという点です。
一方で、
- 修繕費
- 管理費
- 空室による収入減
- 実際の支出
など、実際にキャッシュへ影響する部分については、現在でも通常の必要経費として扱われます。
つまり、 「すべて否定された」のではなく、“減価償却を利用した過度な損益通算”が制限されたという理解が重要です。
なぜ規制されたのか?
税務上は赤字でも、実際には資産価値が残っている、キャッシュも残っているというケースが多く、 「税負担だけが大きく下がる」状態が問題視されました。その結果、制度趣旨とのバランスを取る方向へ改正されました。
ただし「海外不動産=すべてダメ」ではない
ここは誤解されやすいポイントで、海外不動産そのものが違法という話ではありません。
実際には、
- 資産分散
- 為替分散
- 海外市場への投資
- インフレ対策
などの観点で保有されるケースもあります。
ただし、「節税だけ」を主目的とした場合は、以前ほどの効果は期待しにくいという点が重要です。

相続の観点では別の問題が出てくる
そして、ここからが実は重要で、海外資産は、「持つこと」と「引き継ぐこと」が全く別問題です。
海外資産も日本の相続税対象になるケースがある
日本では、一定の場合、海外資産も含めた“全世界財産”が相続税対象になります。
例えば、
- 被相続人が日本居住
- 相続人が日本居住
などの場合には、
- 海外不動産
- 海外口座
- 海外株式
なども相続税申告対象になる可能性があります。
海外移住すれば相続税回避は単純ではない
以前は、「海外に移住すれば日本の相続税を回避できる」というイメージを持つ方もいました。
しかし現在は、税制改正により、一定期間内に日本居住歴がある場合、海外居住でも日本の相続税対象となるケースがあります。いわゆる「10年ルール」などが関係してきますが、適用関係は国籍・在留資格・居住状況などによって異なるため、個別判断が必要です。
二重課税リスク
海外資産では、日本の相続税・現地の税金が両方発生する可能性があります。外国税額控除で一定調整されるケースもありますが、制度理解と手続きが非常に複雑になりやすい分野です。
手続き・管理負担は想像以上に大きい
海外資産では、現地法・現地の登記制度・現地金融機関・現地専門家などが関係してくるため、日本国内だけでは完結しないケースも多くあります。
さらに、書類取得・翻訳・現地手続き・税務申告など、相続人側の負担が非常に重くなることも少なくありません。
分割・売却が難しいケースもある
海外不動産は、流動性・市場規模・現地景気・法制度の影響を受けます。そのため、「売りたい時にすぐ売れないケースもあります。
また、共有状態・相続人間の調整などで、さらに複雑化することもあります。
実は多い「家族が把握していない問題」
これは実務上かなりあります。
- どこの国にあるのか
- どの銀行なのか
- 口座番号は何か
- 誰が管理しているのか
を家族が把握していないケースです。その結果、相続財産として整理できないという問題も起こり得ます。
海外資産で最も重要なのは「見える化」
海外資産で大切なのは、 「持っていること」より、“整理されていること”です。
例えば、
- 財産一覧
- 管理者
- 契約資料
- 口座情報
- 現地専門家情報
などを整理しておくだけでも、相続時の混乱は大きく変わります。
【補足】なぜ今でも海外不動産が勧められるのか?
ここまで読むと、「海外不動産は大変そう」と感じる方もいるかもしれません。
それでも提案される背景には、
- 海外成長市場への期待
- 為替メリット
- 分散投資
- インフレ対策
などの考え方があります。ただし実務では、 “購入時”のメリットに注目が集まり、“相続時”の負担まで十分検討されていないケースも見受けられます。だからこそ、 「入口(購入)」だけでなく、「出口(相続・承継)」まで含めて考えることが非常に重要です。
まとめ
かつては、海外中古不動産を活用した所得税対策が注目されていました。
しかし現在は、海外中古建物の減価償却による損失の損益通算が制限されており、以前ほどの節税効果は期待しにくくなっています。
さらに相続では、
- 全世界財産課税
- 海外手続き
- 二重課税
- 管理負担
- 家族が把握していない問題
など、別の論点も重要になります。
資産形成では、「増やすこと」に目が向きがちですが、 “どう残すか” “どう引き継ぐか”まで含めて考えることが、これからの時代はより重要になっていくのかもしれません。
※ 本記事は制度概要を一般的に整理したものであり、個別案件への適用を保証するものではありません。税務・法務の取り扱いは、居住状況・国籍・資産内容・保有形態等によって異なります。実際の適用については、税理士・弁護士等の専門家へご確認ください。


