障害のある家族と暮らす私たちへ 〜お金・制度・将来の安心を一緒に考える〜
こんにちは、田中です。
生涯、障害のある家族と暮らす中で、「親がいなくなったらどうなるだろう」「お金は足りるだろうか」と不安になることは少なくありません。

実は、障害のある方を支える公的制度や民間の仕組みは意外と多く存在します。そして、これらを上手に組み合わせることで、将来への不安はぐっと減らすことができます。
今回は、所得税・相続税・障害年金・信託制度をわかりやすく解説し、後半では「親亡き後の生活設計」の考え方もご紹介します。
実は、障害は特別な話ではない
障害者と聞くと、どこか自分とは遠い存在に感じるかもしれません。でも、厚生労働省の調査では、日本人の約5人に1人(18%)の方が何らかの障害(身体・知的・精神)を持っているとされています。つまり、誰にでも関わりのある身近な話なのです。

障害者と所得税控除 ~ 知っていると節税できる ~
障害者やその家族は、確定申告で障害者控除を利用できます。
控除額
- 一般の障害者(手帳3級相当など):所得税27万円 / 住民税26万円
- 特別障害者(重度。手帳1・2級、寝たきりなど):所得税40万円 / 住民税30万円
- 同居特別障害者 : 所得税75万円
ポイント:
- 障害者手帳の提示が基本
- 障害者手帳を持っている人が、納税者の扶養家族または本人であること
- 所得が一定以下で、税法上の扶養に該当すること
事例:知的障害のある息子を扶養しているAさん(会社員)
知的障害のある息子を扶養するAさん(20歳・療育手帳A判定)
→ 「同居特別障害者控除(75万円)」が適用され、年間で数万円~十万円の節税に
障害者と「相続税の控除」 ~ 相続のときも、障害者に優遇措置 ~
相続人が障害者の場合、税額控除で相続税を直接減らせます。
控除額の計算方法
(85歳 − 相続人の相続開始時年齢) × 年額控除
年額は:
- 一般障害者:10万円
- 特別障害者:20万円
- ※ 計算上、相続人の年齢が85歳を超えている場合は控除なし
特別障害者とは、以下のような方が該当します:
- 身体障害者手帳:1級または2級
- 精神障害者保健福祉手帳:1級
- 療育手帳:A判定(最重度)
- 常時介護が必要な知的・精神障害者 など
ポイント:
- 障害者手帳があるとスムーズに適用可能
- 控除しきれない場合は他の相続人に振替可能
- 所得税とは別制度で、「同居」は関係なし
事例:特別障害者の長男が親の相続を受けた場合
45歳の特別障害者の長男Bさんが親の遺産を相続
→ (85 − 45)× 20万円 = 800万円控除
※ 相続税から800万円を直接控除でき、控除しきれない場合は他の相続人に振替できるので遺産分割でも有利
障害者と「障害年金」 ~ 手帳がなくてももらえる「生活の補助」 ~
障害年金は、病気やけがによって日常生活や仕事などが制限されるようになった場合に現役世代の方も含めて受け取ることができる年金です。
種類
- 障害基礎年金(国民年金加入者)
- 障害厚生年金(厚生年金加入者)
- 障害手当金(軽度の障害、一時金)
年金は高齢者だけのものではありません。労働による収入を得ることが難しくなったときに、生活するための所得保障をするのが年金制度です。3つある公的年金のうち障害年金は現役世代も受給することができ、原則として20歳から65歳になるまで(65歳の誕生日の2日前まで)請求できます。
ポイント
- 障害者手帳がなくても受給可能
- 働きながら受給できる場合もある
- 初診日や保険料納付状況が重要

ほとんどの傷病が対象
障害年金の対象は、事故で障害を負った人や生まれつき障害がある人ばかりではありません。「うつ病」「双極性障害」「統合失調症」などの精神疾患や発達障害、「がん」「難病」「糖尿病」といった“障害”という言葉と結びつきにくい病気も含め、ほとんどの病気やケガが障害年金の対象です。
原則的に、障害年金は働いていても受給することができます。厚生労働省の令和元年 障害年金受給実態調査によると、障害年金を受給している人の34%が働いていることが分かっています。
眼や耳の障害、肢体障害などの外部障害は、働いていることが障害年金の受給に影響することは少ないと考えられています。一方、精神障害や発達障害、がんや内科系疾患などの内部障害は、認定審査の際に「就労することができている=障害の程度が軽度なのではないか」と判断されることが少なくありません。
障害年金を請求する際には、仕事の種類や内容・職場での受けている援助や配慮・職場での様子などを審査する国側にしっかり伝えることが大切です。なお、すでに障害年金を受給している人が働き始めたことで、すぐに障害年金が停止になることはありません。次回更新時までは、そのまま支給が継続されます。障害者雇用など援助や配慮を受けて就労している場合は、更新の際に働いていても支給継続が検討されます。
障害年金を受給するための要件を満たしていても、請求(申請)しない限り、障害年金を受給することはできません。障害者手帳を持っていても自動的に障害年金が支給される訳ではなく、請求手続きが必要です。
事例:うつ病で働けなくなったCさん(35歳)
うつ病で働けなくなったCさん(35歳)が障害基礎年金2級認定
→ 月約6.5万円の年金で最低限の生活費をカバー
障害年金と老齢年金の併給関係
- 原則:併給できない(障害基礎年金と老齢基礎年金)
- 例外:障害厚生年金+老齢基礎年金 → 併給可能
老齢年金や遺族年金が受給できるようになった場合は、受給する年金を選択する
公的年金には「老齢年金」「障害年金」「遺族年金」の3つがありますが、“一人一年金”が原則です。そのため、障害年金を受給している人が老齢年金や遺族年金を受給できるようになった場合は、どれか1つを選択することになります。障害年金とあわせて受給することはできません。ただし、65歳以上になると、受給権のある年金が複数ある場合には、組み合わせて有利に受給することができることがあります。

ところで、障害年金と障害者手帳の違いとは!?
実は、障害年金をもらっていても手帳を持っていない人は多くいます。逆もあります。
- 項目 : 障害年金 / 障害者手帳
- 所管: 日本年金機構 / 自治体(福祉課)
- 目的 : 生活費の現金給付 / サービスの証明書
- 等級判定の基準: 働く・生活に支障 / 身体機能・知能など
- 給付内容 : 毎月の年金支給 / 税控除・交通割引
注意点・よくある勘違い
- 「等級が高い=障害が重い」という判断基準は手帳と年金で異なる
- 精神手帳は「働いていても」取得できる(就労=不可ではない)
- 手帳を持っている=障害年金がもらえる、ではない
障害者手帳とは?
障害者手帳は、病気や障害によって日常生活に制限がある方が、行政のサポートや支援を受けるための「証明書」のようなものです。大きく分けて、次の3種類があります:
- 身体障害者手帳・・・身体に関わる障害(視覚・聴覚・手足の機能など)
- 療育手帳(愛の手帳など)・・・知的障害がある方向けの手帳
- 精神障害者保健福祉手帳・・・うつ病、統合失調症、発達障害など精神的な障害がある方向け
これらはすべて、自分や家族が自ら申請します。障害者手帳は、年齢制限なく子どもでも大人でも、障害が認められれば必要になったタイミングで申請可能です。
手帳を申請することに抵抗や不安を感じる人も多いですが、それは「特別扱い」ではなく「正当な支援を受けるための権利」です。不安があるなら、市区町村の福祉相談員や地域包括支援センターに話してみることもおすすめです。
障害者と「信託制度」 ~ 親亡き後の生活費を守る ~
障害のある家族の将来の生活費を長期的に確保する方法として、家族信託と商事信託があります。それぞれの特徴を理解することで、自分たちに合った方法を選べます。
家族信託
家族信託は、親が自分の財産を信託して家族に管理・運用を任せる仕組みです。
- 向く人:数百万円〜数千万円程度の財産を持ち、生活費や医療費の支給など柔軟に管理したい場合
- メリット:支給額やタイミングを自由に設定可能で、柔軟に運用できる
- 注意点:贈与税の非課税枠は利用できません
商事信託(特定障害者扶養信託)
商事信託は、信託銀行などの金融機関を通じて契約し、障害者の生活費を長期的に支える仕組みです。2025年現在、非課税枠を活用できます。
- 非課税枠:
- 特別障害者:6,000万円まで
- 一般の特定障害者:3,000万円まで
- 向く人:財産規模が大きく、親亡き後も安定的に資産を守りたい家族。税制優遇も活用したい場合
- メリット:贈与税の非課税枠を使ってまとまった資産を障害者に残せる
- 注意点:
- 契約や管理に手数料がかかり、家族信託ほど自由な運用は難しい
- 財産は相続税の対象外(ただし遺留分の問題には注意)
- 利息や運用益は受益者の所得として課税
- 受益者が亡くなるまで信託契約は終了不可
遺言+信託という形をつかうと、「親なき後」のお金の流れを安心して残せる仕組みができます。
事例:重度の障害がある娘の将来が不安なDさん夫婦
Dさん夫妻は、重度の精神障害がある娘(30歳)の将来が心配で、商事信託を利用。3,000万円を信託銀行に預け、毎月10万円を娘の生活費として支給しています。これにより、親亡き後も生活費が途切れる心配がありません。
安心できる「生活設計」を考える
障害のある方の生活設計は、特別な話ではありません。今や誰にでも関わる時代です。親が亡くなった後も安定した暮らしを実現するためには、公的支援と民間対策を組み合わせることが大切です。
公的支援
- 障害年金
- 自治体の福祉サービス(医療費助成、就労支援、生活支援など)
民間対策
- 家族信託:生活費や不動産管理を仕組み化
- 生命保険:将来の生活資金を確保
- 相続税対策:障害者控除を最大限に活用
生活設計に必要な3つの柱
- 生活費の確保(障害年金+生命保険+金融資産)
- 住まいと財産管理(家族信託・成年後見・遺言)
- 相続税・分割対策(障害者控除+遺産分割ルール)
制度面での2025年ポイント
- 障害年金:支給基準は従来どおり。ただしマイナポータルと連携し手続きが簡略化
- 自治体福祉サービス:自治体差はあるが、障害者総合支援法に基づく支援が拡充傾向
- 相続税の障害者控除:引き続き「85歳までの年齢差方式」で計算。余剰分は他の相続人に振替可能
- 信託制度:家族信託を利用する人が増加。信託登記や税務処理の実務も安定化してきている
生活設計の組み合わせパターン(事例案)
パターン① 「親の遺産で生活費を安定確保」
- 公的支援:障害年金(月6~10万円程度)
- 民間対策:親の生命保険金(年金形式で受け取る)、障害者控除で相続税を軽減
→ メリット:現金収入を毎月確保し、生活費が安定
パターン② 「不動産を生活基盤に組み込む」
- 公的支援:障害年金+自治体の住宅改修補助
- 民間対策:家族信託で賃貸アパートを兄弟が管理、家賃収入を障害のある子へ分配
→ メリット:不動産収益を継続的に生活費に充当。兄弟姉妹とのトラブル防止
パターン③ 「親亡き後の資産運用を信託で仕組み化」
- 公的支援:障害年金
- 民間対策:金融資産を家族信託に組み込み、毎月定額で払い出す仕組みを設定
→ メリット:浪費リスクを防ぎ、長期的に安定した生活費を確保
パターン④ 「相続税対策を前提とした設計」
- 公的支援:障害年金
- 民間対策:障害者控除を最大活用(例:40歳なら450万円控除)、遺言書で兄弟姉妹への公平な分配を明記
→ メリット:税負担を最小化しつつ、兄弟間の公平性を確保
まとめ
障害のある方の税金・相続・生活設計は、特別なテーマに見えて、実は誰にでも起こり得る話です。
- 所得税控除で毎年の税負担を減らす
- 相続税控除で将来の税負担を抑える
- 障害年金で安定収入を確保する
- 家族信託や保険で長期の生活設計をつくる
公的支援 × 民間対策を組み合わせることで、親亡き後も安心できる生活が描けます。
相続や生活設計は、知っているかどうかで大きな差が出ます。
「うちのケースではどうなるの?」と気になる方は、一度専門家に相談してみてください。
早めの準備が、ご本人にもご家族にも、安心をもたらします。
