相続対策における法人活用― 効果が出るケースと、やってはいけない落とし穴 ―
こんにちは、田中 です。
相続対策の話をしていると、「法人を作れば相続税が下がる」という話を当たり前のように耳にします。
確かに法人活用は、
- 個人より税率が低くなりやすい
- 所得分散ができる
- 社会保険料の調整ができる
- 融資や事業承継、M&Aまで見据えられる
など、多くのメリットがあります。

一方で、やり方やタイミングを間違えると、相続対策どころか逆効果になるというケースも、実務では少なくありません。
今回、相続の視点から見た法人活用の注意点を、私的考えも含めながら整理してみたいと思います。
なぜ今、法人活用が増えているのか
法人活用が広がっている背景には、いくつか理由があります。
- 個人より法人の方が税制面で有利になりやすい
- 国民健康保険料など、個人負担が年々重くなっている
- セミナーや書籍で法人活用が一般化してきた
- 会社法改正により、法人設立が容易になった
- 事業承継や融資を見据えて法人を使う人が増えた
- 最終的にM&Aで法人ごと売却する発想も広がっている
つまり、法人は「節税の道具」だけではなく、「将来設計の器」として使われるようになってきています。
「不動産を持てば相続税が下がる」という基本構造
相続対策の基本として、現金→ 不動産に置き換えることで、相続税評価額を下げる という考え方があります。
不動産は、
- 建物は構造により評価が下がる
- 貸すことでさらに評価が下がる
- 土地も貸家建付地として評価減がある
という特徴があるため、同じ金額でも評価上は圧縮できるケースが多いです。この考え方自体は今も有効です。
相続開始前3年以内取得の曲者ルール
相続開始前3年以内に取得した土地・建物等は、相続税評価額ではなく、課税時点の通常の取引価格(時価)で評価するという非常に重要なルールがあります。
- 「不動産を買えば評価が下がりますよ」
- 「法人で不動産を持てば株価が下がりますよ」
と言われて実行しても、3年以内に相続が起きた場合、期待した効果が出ないということがあり得ます。
ここをしっかり理解していないと、物件をせっかく買ったのに、全然評価が下がっていない、聞いていた話と違うということも。
法人の株価対策でも同じことが起きる
法人で不動産を保有すると、
- 現金 → 不動産
- 評価の高い資産 → 評価が下がりやすい資産
に変わるため、結果として株価が下がるケースがあります。
ただし、ここでも同様に相続前3年以内に取得した不動産については、時価評価に引き戻される可能性があります。「法人で買ったから大丈夫」ではありません。
決算書と相続税評価はまったく別物
会社の決算書を見ると、
- 繰延資産
- ローン手数料
- 開業費
など、資産として計上されているものがあります。
しかし、これらは換金性がない、実質的に戻ってこない、という理由から相続税評価では評価対象外になります。
つまり、決算書上は資産が多そう、でも相続税評価では意外と少ない、ということが起こります。

不動産オーナー法人で注意すべき「土地保有特定会社」
不動産を多く持つ会社の場合、土地保有特定会社に該当するかどうかが重要です。
ここでの注意点は、
- 帳簿価格では判定しない
- 相続税評価額で判定する
という点です。
古くから不動産を保有している会社では、
- 帳簿上:1,000万円
- 実際の評価:数億円
というケースも珍しくありません。「帳簿では土地は少ないから大丈夫」は通用しません。
見落とされやすい「借地権」の存在
特に注意が必要なのが、
- 土地は会社所有ではない
- 建物だけ会社所有
というケースです。
帳簿上は、
- 建物
- 保証金
しか載っていなくても、実態として借地権を持っている 場合があります。
この借地権は、相続税評価では加算されるため、評価額が想定より大きくなるという結果になりがちです。建物だけ会社所有の場合は、必ず権利関係を確認する必要があります。
開業後3年未満の会社は「純資産評価」
法人評価には、類似業種比準方式という考え方がありますが、
- 開業後3年未満
- 比準要素数が0
の場合は、純資産価格で評価されます。
ここで注意すべき点は、
- 設立日ではなく「開業日」基準
- 節税目的の法人設立を防ぐための規制
ということです。
ただし、純資産評価=高くなるとは限りません。
- 不動産は相続税評価で圧縮
- 借入金が多い
結果として、評価額がほぼゼロになるケースも実際にはあります。これは、実際に計算してみないと分かりません。
合同会社を使う場合の要注意ポイント
最近増えているのが、合同会社(LLC) を使った法人活用です。設立コストが安く、運営も簡単ですが、相続では注意点があります。
定款に別段の定めがない場合、
- 出資者が亡くなる→ 出資は「払戻請求権」として評価
となり、株式評価とは別の扱いになります。
多くの場合、純資産ベースの評価になるため、想定と違う結果になることもあります。最近の合同会社は対策されていることが多いですが、特に古い合同会社は要チェックです。
相続を考えるなら株式会社が使いやすい
相続の視点で見ると、株式会社には大きな強みがあります。
それは、
- 所有(株主)
- 経営(役員)
を分離できる点です。
例えば、
- 子や孫が株主
- 親は役員として経営
という形にしておけば、親が亡くなっても株が相続財産にならないという設計が可能です。相続対策を目的とするなら、合同会社より株式会社が向いているケースが多いと感じます。

不動産法人の3つの活用パターン
不動産法人の使い方は、大きく分けて3つあります。
① 不動産管理型法人・・・管理料を受け取る形。リスクは少ないが、効果も限定的。
② 一括借上型法人(サブリース)・・・法人が借り上げ、転貸。空室リスクは法人側。
③ 不動産所有型法人・・・法人が不動産を所有。最も効果が大きいが、コストもかかる。
実務では、物件ごとに併用するケースが多いです。
建物を法人に売却するパターンの効果
よくあるのが、次の形です。
- 土地:個人所有
- 建物:法人所有
この場合、
- 家賃収入が法人に移転
- 個人の所得・相続財産の増加を抑制
- 役員給与として相続人に分配可能
さらに、
- 土地の無償返還の届出書を提出
することで、
- 借地権課税を回避
- 土地評価を一律20%減
できるケースもあります。
相続直前の法人化が失敗する典型例
最後に、やってはいけない法人化の典型例です。
相続直前に法人化 → 不動産を法人へ売却 → 圧縮されていた不動産が現金に戻る
結果として、相続財産が増加したり、本来不要だったリスク資産を保有という本末転倒な事態になることもあります。「何のための相続対策なのか」を見失わないようにすべきです。
まとめ:法人化は「目的」ではなく「手段」
- 法人化すれば必ず得、ではない
- タイミングと設計がすべて
- 相続・融資・承継をセットで考える
法人活用は、正しく使えば非常に強力ですが、間違えると取り返しがつかなくなってしまうこともあります。だからこそ、「法人を作るかどうか」ではなく、「何を守りたいのか」から考える必要があるのだと思います。
本内容はあくまで実務目線からの個人的見解になります。税務判断を行う際は必ず専門家にご相談ください。


