「実家を残すべきか、売却すべきか」~戸建住宅の相続を“税金だけで考えない”ために~
こんにちは、田中 です。
相続相談の中でも、特に悩みが多いのが「実家」の取り扱いです。
特に戸建住宅の場合、
- 誰が住むのか
- 売却するのか
- 相続税はどうなるのか
- 空き家にするのか
- 管理できるのか
など、単なる「不動産」ではなく、感情・税金・家族関係・将来の生活まで絡むテーマになります。
一方で、税金だけを見て判断すると、後から大きな問題になるケースも少なくありません。
今回は、「実家を残すべきか、売却すべきか」をテーマに、
- 小規模宅地等の特例
- 空き家特例
- 生前売却(3,000万円控除)
- 相続後売却
- 取得費5%ルール
などを含め、全体像を整理したいと思います。

※なお、今回は「戸建住宅」を中心に考えています。区分マンションは比較的手離れしやすいため、今回は除外しています。
まず考えるべきは「相続税」だけではない
実家の相続というと、「相続税をいかに安くするか」に目が行きがちです。
もちろん重要ですが、実際には、
- 空き家化
- 維持管理
- 解体
- 相続人が遠方
- 売却困難
- 納税資金不足
- 兄弟間トラブル
など、相続後の出口が非常に重要になります。つまり、「相続税が安い=成功」ではありません。むしろ、「将来どう処理するか」まで含めて考える必要があります。
代表的な考え方は大きく3つ
実家の取り扱いとして、代表的には以下の3つが考えられます。
- 小規模宅地等の特例を使って相続する
- 親が生前に売却する(3,000万円控除)
- 相続後に売却する(空き家特例含む)
実際には、「どれが正解か」ではなく、「何を優先するか」で答えが変わります。
① 小規模宅地等の特例を使って相続する
小規模宅地等の特例とは
被相続人の自宅土地について、最大330㎡まで、評価額を80%減額できる制度です。都市部では非常にインパクトが大きく、相続税を大きく下げられる可能性があります。
メリット
- 相続税を大きく圧縮できる
- 現金流出を抑えられる
- 地主系資産家では非常に有効
ただし、この制度は、「実家を残す」前提になりやすいという特徴があります。
- 空き家化
- 維持管理
- 解体費
- 草木問題
- 防犯
- 固定資産税
- 売れない
などの問題が、後から発生する可能性があります。
特例が使えない代表例
小規模宅地等特例は非常に強力ですが、要件が細かく、注意が必要です。
代表例として以下のようなものがあります。
- 同居していない
- 「家なき子」要件を満たさない
- 二世帯住宅で区分登記されている
- 老人ホーム入所時の要件不備
- 相続前の贈与
- 建替えタイミング
また、「絶対に使える」とは言い切れません。最終的に判断するのは税務署(国税庁)であり、個別事情が重要になります。
② 親が生前に売却する(3,000万円控除)
実は、これも非常に重要な選択肢です。
特に以下の場合は、かなり有効なケースがあります。
- 子が実家を使わない
- 相続人が遠方
- 相続人同士が不仲
- 実家管理が難しい
- 高齢者施設への入居予定
マイホーム3,000万円控除
親が「自宅」として売却する場合、譲渡所得から3,000万円控除できる可能性があります。つまり、売却益が出ても、税金ゼロになるケースが多いです。
生前売却のメリット
- 現金化できる→ 分けやすい
- 空き家問題を回避できる
- 管理負担をなくせる
- 高齢者施設へ移りやすい
- 相続後売却より動きやすい→ 相続人全員の同意不要
「取得費5%ルール」を回避できる可能性
取得費5%ルールとは、不動産売却時、「昔いくらで買ったか」が分からない場合、税務上、売却価格の5%しか取得費として認められません。これを「概算取得費」と言います。
例えば、売却価格2,000万円・契約書なし → 取得費5%適用され、取得費100万円 となります。
実際には利益が出ていなくても、税務上は大きな利益が出たように見えてしまいます。これは相続不動産で非常に多いトラブルです。
生前売却の強み
親本人であれば、
- 契約書
- 建築資料
- 増改築履歴
- 境界資料
などを把握していることが多く、取得費を立証しやすい可能性が高いというメリットがあります。
生前売却のデメリット
もちろん万能ではありません。
- 小規模宅地等特例が使えなくなる → 相続税の節税という意味では不利になる場合があります。
- 現金化で相続税評価が上がることも → 不動産は相続税評価が下がりやすいですが、現金は額面評価です。
- 長生きリスク → 売却後の生活費設計が必要になります。
- 認知症リスク → 判断能力が低下すると売却が難しくなります。
- 突然相続が発生した場合 → 売却契約後に亡くなると、準確定申告、契約日・引渡日の論点なども発生する可能性があります。
③ 相続相続後に売却する(空き家特例含む)
相続後に売却するケースも非常に多いです。ただし、ここでも注意点があります。
空き家特例(被相続人居住用財産)
一定要件を満たす場合、譲渡所得から3,000万円控除できる可能性があります。
代表的要件
- 被相続人が一人暮らし
- 昭和56年5月31日以前建築
- 区分所有建物ではない
- 相続後空き家
- 売却価格1億円以下
相続後売却で注意すべきこと
ここがかなり重要で、 「親が2,000万円で買った」≠「取得費2,000万円」とは限らないという点です。
建物は減価償却される
例えば、
土地800万円
建物1,200万円
で購入していても、建物部分は長年の利用で減価償却されます。つまり、建物取得費がかなり減る可能性があります。結果として、思った以上に譲渡所得が出るケースがあります。
売却時に差し引けるもの
売却時には、
- 仲介手数料
- 解体費
- 測量費
- 境界確定費
- 家財撤去費
など、売却のため直接必要な費用を控除できる可能性があります。
また、相続税の取得費加算(相続開始から3年10か月以内の売却)も重要です。

結局、何が正解なのか
実家問題は、「税金だけ」では決まりません。
小規模宅地で節税成功、でも、
- 誰も住まない
- 売れない
- 空き家化
- 管理できない
結果、相続人が疲弊というケースもあります。
逆に、生前売却 → 現金化 → 分けやすい → トラブル回避 → 老後資金確保というケースもあります。
最後に
実家は、節税商品ではありません。
- 家族関係
- 管理能力
- 感情
- 将来利用
- 地域性
- 納税資金
すべてを含めて考える必要があります。だからこそ、「相続税だけ」ではなく、「出口戦略」として考えることが大切だと思います。
終わりに(私的意見)
相続の相談を受けていると、つい「節税」に目が向きがちです。もちろん、税金を抑えることは大切です。小規模宅地等の特例や、各種控除・特例制度は、相続対策として非常に有効な場面があります。
ただ、実務で本当に怖いと感じるのは、「節税はできたけれど、結果として不幸になってしまう」ケースです。
例えば、
- 特例のために同居した結果、家族関係が悪化してしまった
- 実家を残したものの、誰も住まず空き家化してしまった
- 土地は守れたが、現金がなく納税や維持管理に苦しんでしまった
- 節税を優先した結果、兄弟間の関係が悪くなってしまった
こういったケースは、決して珍しい話ではありません。
だからこそ、制度を活用することは大切ですが、「制度に人生を合わせすぎない」という視点も、とても重要だと感じています。
本来、相続は「税金対策」だけではなく、
- 誰が住むのか
- 将来管理できるのか
- 家族が納得できるのか
- 本当に残したい資産なのか
- 将来どう暮らしていきたいのか
まで含めて考えるものだと思います。相続対策に絶対の正解はありません。だからこそ、「税金」だけではなく、その後の暮らしまで見据えた出口戦略として考えていくことが大切なのではないでしょうか。
※ 相続は個別事情によって大きく変わります。実際の適用可否については、税理士・司法書士・弁護士など専門家へご相談ください。


