相続・空き家・土地問題に備える!知っておきたい3つの制度 ~相続土地国庫帰属制度・空き家特例・相続登記の義務化~
こんにちは、田中です。
相続や空き家の問題は「誰にでも起こりうる」身近な話題です。
「遠方に住んでいて使う予定がない」「放っておくと管理が大変」――そう感じる方も多いでしょう。放置すれば、固定資産税・管理コスト・近隣トラブル・次世代への負担がのしかかる可能性も。

早めの情報収集と手続きで、資産の最適な活用・引き継ぎを進めていきましょう。
空き家特例(3,000万円の譲渡所得控除)
相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋または被相続人居住用家屋の敷地等を令和9年(2027年)12月31日までに売って、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができます。これを、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例といいます。
共有名義で相続した空き家を売却する場合、共有者全員に空き家特例の特別控除を適用できます。たとえば、共有者が2人の場合、特別控除額(3,000万円×2人)は最大6,000万円となります。なお、3人以上の場合、1人当たりの特別控除額は2,000万円になります。
一般的に長期間保有している不動産であることが多いことから、通常売却時適用される税率は長期保有の20.315%税率になると思います。

例えば、1億円の財産、相続人が配偶者と子ども3人(計4人)であれば、相続税の総額は525万円です。配偶者が法定相続分通り相続すると配偶者は配偶者の税額軽減を使用できますので、相続税全体の税負担は、262.5万円となります。
そう考えると、約600万円の譲渡税が変わる可能性があるって結構大きいインパクトがありますよね。
ただし、この制度を使えるかは、以下のような厳しい要件があります。
空き家特例の主な適用条件(抜粋)
① 被相続人の家屋
- 昭和56年5月31日以前建築(旧耐震基準)
- 被相続人が1人で住んでいたこと(死亡時点で単身)
- 区分所有建物(マンション等)は対象外
② 相続人の取得条件
- 土地および建物を相続または遺贈により取得
- 譲渡する人が、土地と建物の両方を所有(持分に対応していればOK)
③ 空き家の状態
- 相続後、譲渡まで空き家状態を維持する必要あり
- 事業用や賃貸、他人の居住に供していないこと ※一時的な保存管理のための使用はOK
④ 解体または耐震改修
- 譲渡前に、建物を除却(解体)または耐震改修工事を行うこと
原則:譲渡前に完了
例外:譲渡年の翌年2月15日までの除却または改修でも適用可
⑤ 譲渡の期限
- 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
⑥ 譲渡価格の上限
- 売却価格が1億円以下
⑦ 控除額
- 相続人1人:最大3,000万円まで
- 3人以上の場合:令和6年1月1日以後に行う売却は、1人当たりの特別控除額は2,000万円
注意ポイント
- 被相続人が老人ホームに入所していた場合なども、一定条件下で対象になります(別要件あり)。
- 解体や耐震リフォームについては、譲渡後でも期限内に行えば特例適用になりました。
ちなみに、3000万円控除といえば「居住用財産の3,000万円特別控除」がありますが、「空き家特例」とは全く別の制度ですので適用要件も異なります。
居住用財産の3,000万円特別控除(通称:3,000万円控除)
マイホームを売却したときに、所有期間に関係なく譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度です。ただし、同年中に空き家特例と併用する場合は、2つの特例をあわせて3,000万円が控除限度額となります。これを、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」といいます。
- 対象不動産 : 自分が住んでいた家(居住用財産)
- 控除額 : 最高3,000万円
- 対象者 : 所有者本人
- 所得区分 : 居住用財産の譲渡所得
- 主な要件 : 譲渡時に住んでいた、もしくは転居後3年以内に売却する など
- 利用回数 : 一生に何度でも可(ただし、売った年の前年および前々年にこの特例(空き家特例「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例」によりこの特例の適用を受けている場合を除きます。)またはマイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと)
空き家特例と、居住用財産の3,000万円特別控除は、併用はできる?
それぞれ要件を満たすことで譲渡所得から最高3,000万円まで控除することができます。 ただし、同一年内に売却する場合には、2つの特例合わせて3,000万円が控除の限度となります。
両方とも「譲渡所得」にかかる制度なので、譲渡所得が発生しない(赤字)場合は使えません。確定申告が必要であることは忘れてはいけません。
空き家特例と、小規模宅地等の特例(特定居住用)は、併用はできる?
基本的に併用可能です。相続時に小規模宅地等の特例を適用して評価減しても、その後に売却する際に空き家特例を使うことは原則可能です。
- 小規模宅地等の特例(特定居住用)➜ 相続税の計算上、居住用宅地の評価額を最大80%減額できる(相続税)
- 空き家特例 ➜ 相続した「空き家」の売却で発生した譲渡所得から最大3,000万円控除できる(譲渡所得税)
併用時の注意点(一部抜粋)
- 建物の要件 : 被相続人が一人暮らしで住んでいた家屋であること(空き家特例)
- 相続人の要件 : 小規模宅地等の特例では、一定の同居または持ち家なしの要件が必要
- 空き家の状態 : 相続から売却までの間に賃貸や事業用に使用していないこと(空き家特例)
- 取り壊しの有無 : 旧耐震住宅は耐震改修または取り壊しが必要(空き家特例)
- 名義の問題 : 空き家特例は「相続人が単独所有」していることが前提(共有名義NG)
併用できない or 難しくなるケース
- 相続後、賃貸したり、親族が住んだりすると空き家特例NG
- 相続税の申告期限までに売却すると、小規模宅地の特例NGになることも
- 名義が共有(兄弟など)になっていると、空き家特例NG
空き家特例 と 相続税の取得費加算 は、原則として併用できません
これは選択適用となっており、どちらか一方しか使えません。所得税(譲渡所得)
- 空き家特例(3,000万円特別控除): 相続した空き家を売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円控除
- 取得費加算の特例 : 相続税を払った場合、その一部を不動産の取得費に加算して譲渡所得を減らせる

相続登記・住所変更登記の新ルール
「知らなかった…」では済まされない!?
令和6年(2024年)4月1日から、不動産に関する重要な法律が変わりました。不動産を相続したときや、引っ越しなどで住所が変わったときに必要となる「登記」が法律上の義務となっています。
相続登記の義務化(2024年4月1日スタート)
亡くなった方が所有していた不動産(土地や建物)を相続した人が、自分の名義に変更する手続きです。これまでは任意でしたが、今後は必ず行わなければならない手続きになりました。
- 相続で不動産を取得した相続人は、相続を知った日から3年以内に登記申請が必要。
- 遺産分割協議で不動産を取得した場合は、協議成立から3年以内に登記が必要。
正当な理由がないのに登記をしなかった場合、10万円以下の過料(罰金のようなもの)が科されることがあります。
2024年4月1日より前に相続した不動産も、相続登記が済んでいない場合は義務化の対象です。この場合は2027年3月31日までに登記を済ませる必要があります。
住所等変更登記の義務化(2026年4月1日スタート)
不動産の所有者が、以下のような場合に住所や氏名の変更を登記する義務があります。
- 引っ越し(住所変更)
- 結婚や離婚で氏名が変わった
- 法人で本店移転や社名変更があった など
変更日から2年以内に登記する必要があります。すでに変更があった人も、2028年3月31日までに登記を済ませる必要があります。
正当な理由がないのに登記しなかった場合、5万円以下の過料が科される可能性があります。
個人の場合、かんたんにできる「検索用情報の申出」をしておくと、後は法務局が自動的に変更登記してくれる「スマート変更登記」サービスが利用できます。インターネットから無料で申出が可能です。
相続した土地を手放したい方へ:「相続土地国庫帰属制度」とは?
相続した土地について、「遠方で利用する予定がない」「管理が大変…放置したくない」そんなお悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。こうした声に応えるため、令和5年4月27日から「相続土地国庫帰属制度」が始まりました。
相続や遺贈により取得した土地について、一定の条件を満たせば、法務局に申請して国(国庫)に引き取ってもらえる制度です。
申請できる人
- 相続や遺贈によって土地の所有権を取得した個人の相続人 ※制度開始(令和5年4月27日)以前に相続した土地も対象です
- 法人や贈与・売買で取得した方は申請不可
- 共有名義の土地は、全員で共同申請が必要です
申請できない土地(対象外)
以下に該当する土地は、国庫帰属が認められません。
- 建物や工作物、車両などがある土地
- 土壌汚染、埋設物がある土地
- 危険な崖を含む土地
- 境界が不明な土地
- 抵当権などが付いている土地(担保)
- 通路などで他人が利用する予定がある土地
手続きの流れ(概要)
- 法務局に申請(申請書+必要書類の提出)
- 書類審査・現地調査
- 審査手数料:1筆あたり14,000円
- 承認されれば、負担金を納付(原則20万円/土地の種類や地域により異なる)
- 所有権が国に移転!
必要な書類(一部)
- 土地の図面・境界・形状が分かる写真
- 相続関係を証明する戸籍・住民票
- 印鑑証明書
- 遺言書や遺産分割協議書(該当する場合)
※詳細は法務局または専門家にご相談ください。
負担金について
- 承認された場合のみ納付
- 管理費用相当の「10年分」が基準
- 原則:20万円程度
- 地域・面積・土地の種類によって増減
注意点
- 承認までには数か月以上かかるケースも
- 申請後に住所変更・氏名変更があったら法務局へ連絡必須
- 申請者が亡くなった場合は60日以内に相続人が手続継続の申出が必要
制度の活用で安心を
不動産は「所有しているだけ」でコストがかかり、後回しにするとトラブルの原因になります。
自分には関係ないと思わずに、情報収集と早めの対策を!
必要に応じて税理士・司法書士・不動産業者などの専門家にも相談を!
