【令和6年改正】分譲マンションの相続税評価方法が変更されました ─ 戸建との不公平感を是正するための見直しとは!?
こんにちは、田中 です。
2024年(令和6年)から、分譲マンション(居住用区分所有財産)の相続税・贈与税の評価方法が大きく変わりました。
これまでの評価方法では、実勢価格と評価額の乖離が大きいことが問題とされており、特に都心の高層マンションなどに顕著でした。この乖離を是正するため、「区分所有補正率」を導入し、より市場価値に近い評価を行う制度へと改正されました。

戸建 vs 区分マンション ― 改正の背景にある“見えない格差”
たとえば、以下のようなケースがありました:
- 都心の新築タワーマンション(高層階)は実勢価格1億円超でも
相続税評価額は 3,000〜4,000万円台とかなり低く評価される - 一方で、同じ1億円でも 郊外の土地付き戸建ては、
土地評価がそのまま反映されるため、相続税評価額もほぼ1億円近く
つまり、資産額が同じでも納税額に数百万〜数千万円の差が出てしまう現状がありました。
このような構造は、いわゆるタワマン節税とも呼ばれ、課税の公平性が問われていたのです。
従来の分譲マンション評価方法
- 建物部分:固定資産税評価額
- 土地部分:路線価 × 敷地権割合
建物と土地をそれぞれ別の方法で評価し、合計額が課税評価額となっていました。
そもそも、区分建物ってなに?
区分建物とは、1棟の建物を構造上・利用上、独立した部分に分け、各部分ごとに登記が可能な建物のことです。
- 分譲マンション : 〇区分建物
- 一棟賃貸マンション(全室貸し出し) : ×区分建物ではない
- 二世帯住宅(親子・兄弟で上下階) : △稀に区分登記されている建物もあるが、専有部分3以下等で除外されやすい
- 店舗+住居の混合マンション : 〇区分建物(住居部分のみ対象)
新制度の対象外となる建物
- 区分建物でない建物(一棟マンション(大家が1人)、テナントビル(1人の所有者が全フロア保有)など)
- 居住用でない部分(店舗・事務所・倉庫など)
- 低層住宅(総階数2階以下)
- 室数3以下で親族のみが使用している建物
- 借地権付きマンション(土地が定期借地権など)
評価の新ルール:区分所有補正率の導入とは?
新制度では、従来の評価額に加えて、4つの指標(A~D)をもとに補正率を計算し、実勢価格との乖離を補正します。
Step 1:今までのやり方での価額(元の価格)を出します。
- 建物部分(区分所有権)は:固定資産税評価額 × 1.0 → 例:4,000,000円
- 土地部分(敷地利用権)は:敷地全体の路線価評価額 × 自分の持分割合 → 例:10,500,000円
Step 2:そのマンションの特徴を元に「区分所有補正率」を出します。
以下4つの要素について、建物の特徴や敷地権の広さに応じて補正率を掛けて評価します。
- 項目 : 評価への影響
- A:築年数(古いほどマイナス): マイナス補正
- B:建物の総階数(高層ほどプラス): プラス補正
- C:専有部分の所在階(高層階ほどプラス): プラス補正
- D : 敷地持分の狭さ(狭いほどマイナス): マイナス補正
それぞれ代入すると、
- 項目 : 値 説明
- A: 27年 × △0.033 = △0.891 ・・・築27年なので結構古め
- B: 総階数11階 → 0.333(総階数指数÷33) × 0.239 = 0.079 ・・・11階建ての中程度の規模
- C: 所在3階 → 3 × 0.018 = 0.054 ・・・中層階なので少しプラス
- D: 敷地面積21㎡ ÷ 専有60㎡ = 0.35 × △1.195 = △0.419 ・・・土地の持分が狭めなのでマイナス
「評価乖離率」を計算します:
- 【計算式】 評価乖離率 = A + B + C + D + 3.220
代入すると、
- 合計:評価乖離率 = A (△0.891 )+ B (0.079)+ C(0.054) + D(△0.419) + 3.220 =2.043
Step 3:評価水準を出します。
- 評価水準 = 1 ÷ 評価乖離率
これは単純に:
- 評価水準 = 1 ÷ 評価乖離率(2.043) = 0.489
評価水準が大きい(=評価乖離率が小さい)ということは、価値の乖離が小さい、一方で、評価水準が小さい(=評価乖離率が大きい)と、実勢価格との乖離が大きいという判断になります。
Step 4:区分所有補正率を確認します。
評価水準に応じて、3つのパターンに分かれます:
- 評価水準 :区分所有補正率の決まり方
- 0.6未満 :評価乖離率 × 0.6(補正あり)
- 0.6〜1.0 :補正なし(従来どおり)
- 1.0超え : 評価乖離率そのまま使う
今回は 評価水準 =0.489なので、「補正あり」:2.043 × 0.6 = 1.2258(← これが補正率)
最終的な評価額:
この補正率を、先ほどの【建物】【土地】の評価額にかけます:
- 建物:4,000,000円 × 1.2258 = 4,903,200円
- 土地:10,500,000円 × 1.2258 = 12,870,900円

建物評価(積算法)
積算法とは、立地(都心 or 地方)に関係なく、「建物そのもの」に着目したコストベースの評価方法です。
たとえば、
- 建物の構造(鉄筋、木造など)
- 建築面積(延床面積)
- 使用材料
- 設備(エレベーター、冷暖房設備 等)
- 経年減価(築年数により減価)
土地評価(路線価方式)
相続税評価(=課税評価)での土地の価額は、原則として路線価 × 面積で評価されます。
なので、建物と土地は評価方法が別軸になっています。
「評価乖離率(ABCD)」は「建物中心」?
A〜Cはすべて建物に関する指標ですが、Dのみは敷地権割合=土地の要素です。
したがって、補正率は建物・土地の両方に掛けるものの、評価乖離率はやや建物寄りの設計になっています。
- 項目 評価対象 内容
- A : 建物 築年数(古いとマイナス)
- B : 建物 総階数(高層ビルだとプラス)
- C : 建物 所在階(上階ほどプラス)
- D : 建物 敷地権割合(敷地の持ち分が小さいとマイナス)
区分所有補正率は、建物評価にも土地評価にもかかる?
区分所有補正率は、次の両方に乗じて最終評価額を算出します。
評価対象 : 元の評価額 × 補正後の評価額
建物(区分所有権) : 固定資産税評価額 × 1.0 × 補正率
土地(敷地利用権) : 路線価評価 × 敷地持分 × 補正率
立地(都心 or 地方)は補正対象外
計算式には「立地」に関する要素は含まれていません。
しかし、都心部ほど実勢価格との乖離が大きくなる傾向があるため、補正率の導入によって一定の是正効果はあるものの、実態を完全に反映するわけではありません。
まとめ
令和6年以降、分譲マンションの相続評価は補正されやすくなりました。補正率により、従来より評価額が上がる(課税額が増える)ケースが多くなります。評価額は、物件ごとのスペック(築年数・階数・敷地割合など)に応じて異なるため、事前にシミュレーションしておくことが重要です。不動産や税金に関して気になる方は、専門家や税理士に早めにご相談ください。
